早期退職における退職金の受け取り方別税金比較:一時金・年金・併用それぞれのメリットと選択の基準
早期退職を検討する際、退職金は退職後の生活設計を左右する重要な要素の一つです。その退職金を「一時金」として一括で受け取るのか、「年金」として分割して受け取るのか、あるいは「一時金と年金の併用」とするのかによって、課せられる税金や社会保険への影響が大きく異なります。
本記事では、早期退職を視野に入れている方々が、自身の状況に合わせた最適な退職金の受け取り方を選択できるよう、各方法の税制上の特徴やメリット・デメリット、そして選択における考慮点について詳しく解説します。
退職金の主な受け取り方法の種類
退職金の受け取り方には、主に以下の3つの選択肢があります。企業によってはこれらの選択肢がすべて用意されているわけではないため、まずはご自身の勤務先の退職金規程を確認することが重要です。
- 一時金として受け取る 退職時に退職金全額を一度に受け取る方法です。多くの企業で採用されている一般的な形式です。
- 年金として受け取る 退職金を一括で受け取らず、退職後、一定期間にわたって分割して年金形式で受け取る方法です。企業年金制度の一部として設計されていることが多いです。
- 一時金と年金を併用して受け取る 退職金の一部を一時金として受け取り、残りを年金として分割して受け取る方法です。それぞれのメリットを組み合わせることが可能です。
各受け取り方法の税制上の特徴と計算方法
退職金は、その受け取り方によって適用される税制が大きく異なります。ここでは、それぞれの税制上の取り扱いについて解説します。
1. 一時金で受け取る場合の税制
退職金を一時金として受け取る場合、「退職所得」として扱われます。退職所得は、他の所得とは分離して税額を計算する「分離課税」の対象となり、所得税・住民税が課せられます。この際、「退職所得控除」という大きな控除が適用される点が特徴です。
退職所得の計算式: (退職金収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2 = 退職所得の金額
退職所得控除額の計算式:
- 勤続年数20年以下の場合: 40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続年数20年超の場合: 800万円 + (70万円 × (勤続年数 - 20年))
勤続年数には1年未満の端数がある場合、切り上げて1年として計算します。また、障害者となったことで退職した場合は、上記の控除額に100万円が加算されます。
退職所得控除は非常に手厚く設定されており、特に勤続年数が長い場合や、早期退職でも退職金が比較的少額である場合には、課税される退職所得がゼロになることも少なくありません。
2. 年金で受け取る場合の税制
退職金を年金として受け取る場合、公的年金等と同じ「雑所得」として扱われます。この雑所得は、給与所得や事業所得など他の所得と合算して税額を計算する「総合課税」の対象となります。
年金として受け取る際には、「公的年金等控除」が適用されますが、その控除額は受け取る年金額や年齢によって変動します。
雑所得(公的年金等)の計算例: (年金収入金額 - 公的年金等控除額)= 雑所得の金額
公的年金等控除額は、年金収入の金額や受給者の年齢によって細かく定められています。例えば、65歳未満で公的年金等の収入金額が60万円以下であれば全額控除されるなど、一定の基準があります。
年金として受け取る場合、他の所得と合算されるため、退職後の所得状況によっては高い税率が適用される可能性があります。
3. 一時金と年金を併用して受け取る場合の税制
一時金と年金を併用する場合、それぞれの部分に上記の税制が適用されます。つまり、一時金として受け取る部分には退職所得控除が適用され、年金として受け取る部分には公的年金等控除が適用され、雑所得として総合課税の対象となります。
この場合、退職所得控除は先に受け取る一時金に対して優先的に適用されるのが一般的です。一時金で退職所得控除を使い切った後で年金を受け取る場合、年金部分にかかる税負担が大きくなる可能性があります。
早期退職における退職金の受け取り方選択の基準
早期退職を検討する40代のエンジニアが、退職金の受け取り方を選択する際に考慮すべき主な点は以下の通りです。
1. 勤続年数と退職金総額
- 勤続年数が長い場合: 退職所得控除額が大きくなるため、一時金として受け取ることで非課税となる部分が大きくなる可能性が高いです。
- 退職金総額が大きい場合: 退職所得控除を超過する部分については税金がかかりますが、一時金は分離課税であるため、総合課税となる年金よりも税率が低くなるケースが多いです。
2. 退職後の所得見込み
- 退職後も一定の収入が見込まれる場合(再就職、フリーランスなど): 年金形式で受け取ると、他の所得と合算されて高い税率が適用される可能性があります。この場合、一時金の方が税負担を抑えられる可能性があります。
- 退職後に当面収入がない、あるいは少ない場合: 年金形式で受け取っても、公的年金等控除の適用や、他の所得が少ないことによる低い税率適用により、税負担が抑えられる可能性があります。また、計画的な家計管理を助ける効果も期待できます。
3. 資産運用や退職後のマネープラン
- 退職金を元手に積極的に資産運用を考えている場合: 一時金として受け取り、ご自身で運用する選択肢があります。ただし、投資リスクを負うことになります。
- 安定した収入を望む、または運用に自信がない場合: 年金形式で受け取ることで、計画的な支出管理と安定した収入を得られるメリットがあります。ただし、インフレリスクや運用利回りの低下といったリスクも考慮する必要があります。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)の活用: これらの制度をすでに利用しているか、退職金をきっかけに始めることを検討している場合、退職金を一時金として受け取り、非課税枠を活用して運用することも戦略の一つです。ただし、iDeCoは60歳まで引き出せないなどの制約があります。
4. 健康状態と将来の不確実性
- ご自身の健康状態や将来の医療費の懸念がある場合、まとまった資金を一時金として手元に置いておくことで、不測の事態に備えることができます。
- 年金として受け取る場合、万が一受給中に亡くなった際に、未受給分がどうなるか(遺族への支給、消滅など)を事前に確認しておく必要があります。
選択に迷った際のシミュレーションと専門家への相談
退職金の受け取り方による税額の差は、勤続年数、退職金総額、退職後の所得見込みなど、個々の状況によって大きく変動します。ご自身で複数のパターンをシミュレーションし、比較検討することが重要です。
複雑な税制や将来のマネープラン全体を見据えた最適な選択を行うためには、税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家への相談を強く推奨いたします。専門家は、最新の税法に基づき、個人の状況に合わせた具体的なアドバイスやシミュレーションを提供してくれるでしょう。
まとめ
早期退職における退職金の受け取り方は、退職後の生活設計に直接影響する重要な決定です。一時金は「退職所得控除」による大きな税制優遇が魅力であり、年金は安定した収入を確保できるメリットがあります。また、併用も柔軟な選択肢となり得ます。
ご自身の勤続年数、退職金総額、退職後のライフプランや資産運用計画、健康状態などを総合的に考慮し、最も有利かつ安心できる方法を選択することが賢明です。疑問点や不安がある場合は、早めに専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。